GET SHERLOCK

BBC「シャーロック」とその周辺について

SHERLOCK S4E3 /QUEEN

最終話、いつになくきれいにまとまったので完結でも第一部完でもどちらでもいい感じ。SHとJWが飛び出してえいやな絵面で終わりはどうかと思いますが…推理ものはシーズンを重ねてつまらなくなることが多々ある中、期待以上にキープしていると思います。新しいことに挑戦しているし、このままクオリティキープできるなら何年かに1シーズンくらいのペースで続くと嬉しいなと思います。まあ、きれいに閉じたのならそこでおわる美学もすきですが。

まだ全然断片的で投稿するのはよそうかと思いましたが、気がついたことを。

※日中外出していて、この記事を投稿してから気がついたのですが、
昨日の記事に私のQUEEN、UK関係の心の師匠、あろまるさまから
フレディ・モリアーティについて貴重なコメントを頂いておりました。ぜひご参照下さい。
SHERLOCK S4/最後の問題?

モリさん登場シーンBGM、QUEEN 「I Want To Break Free」。
NHKの『深読み読書会』のBGMがQUEENづくしだったわけがわかりました。
ちなみにPVでは全員女装している。
この歌詞の和訳、わかりやすかったのでリンクはしていませんがアドレスを載せておきます。
http://blog.livedoor.jp/saqauten/archives/911317.html



後半は牧神の午後なんですね〜(こいつも問題作だ)
牧神=パン=ピーター・パン

そして、QUEENにはおかまという意味があると昔ロック雑誌で読んだことがあります。
(バンド名にはQUEEN、HEARTとかKISSとか女の子っぽい名前や、GUNS & ROSESのようなダブルミーニングが多いというお話でした。)一応辞書の意味リンクしておきます。Weblio

まだS4検索は解禁していませんが、女王の事だけちらと読ませていただきました。ブラックボックス化していたマイクロフトが女王の後ろ盾なしではダメな人的落とされ方をしている気がしました。そして歌詞を読むとクスッとします。
勝手な意見ですが、前から世評(フォローしていないのでこの辺は詳しく知らない)と逆の気がしていたモファティスって、やっぱり素直じゃないなあという気がします。

もう何ヶ月も前ですが、あろまる様やネッ友の方々と「法で裁けない人物を私的に裁くホームズ」の是非についてネットでお話ししたことがありました。S4E3では、221Bでの決まりごとにはマイクロフトも従わなければいけないし、法を超えた存在であるSH & JWをベイカーストリートボーイズとしてメアリに認められる、という話でした。でもバックストリートボーイズのダジャレだと思いました。ピエロはありがちですが、個人的には『ELEMENTARY』のジョニー・リー・ミラーの出ていた『ロンドン・ドッグス』の時の仮装を思い出したし、彼が歌っていた「Avenues and Alleyways」(表通りと裏通り)という連想をしました。勝手な自由連想です。ジョニーつながりで、E1サッチャーの石膏像を割るシーンは『ELEMENTARY』オープニングのデジャヴュを激しく感じました。

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SHERLOCK S4E3/ユーロス

ユーロスの大変危険な子ども時代のエピソードについて。
一見リスカかと思われたことも訳を聞くと、筋肉の動きが見たかったと。
また居室に火をつけたりしていますが、
危険なことをしたり火をつけたのはエジソンの好奇心と探求心のエピソード。
ベネさん、エジソンを演じられていますし、そっちも楽しみです。

SHERLOCK S4/最後の問題?

E3まで見て、S4もやっぱりおもしろかったです。UKでは半年も前に放送済みだけど、そこから日本で放送までの間、あまり前ほど盛り上がっていないのかなという印象でした。ずっとネタバレ回避していたので、今も他の方の感想は読んでおらず、今さらですが独断の感想です。さすがに内容にはふれます。E2までの感想を書いていたものに、今日E3初見の感想も少しだけプラスしています。


E1を見て、一応事件は一話完結スタイルだけど二人の物語はシーズン全体を通してみないとわからないと思いました。E2を見てからE1を見るとまた新しい発見もあり、いろいろ仕込んであります。このシリーズは行き当たりばったりに言われるけど、初めの頃からかなり先まで大まかな筋は作ってあったのではないかと思いました。それはセラピストの”エラ”のネーミング。S4では一連の人がEのつく名前なのですよね。S1からすでにEだったんだということにゾクゾクしました。私は意図してやっているとか丁寧に作っているいうのが感じられたらOKです。

S4はE1、2を見たところ「かっこ悪い二人」をやっていると思います。だから視聴者が批判的になっているのかなと思いました。どう転がるか先が見えない2エピソード、E3は始まってすぐにおもしろかった。ミスリードがうまく、マグヌッセンのうやむやな回収も視聴者を油断させるためだったかと思いました。

■前エピソードのトレース(E1、E2)
エピソード被りがあるというのはわざとだろうという予想でしたが、E3を見てなるほどと思いました。その構造もやっぱり秀逸だと思います。
E1、E2の「かっこ悪い二人」、ヒーローなら同じような場面があれば何度やってもうまくいくはず。普通の人でも学習したから今度はうまくいったねとなるでしょう。それをどんどん失敗するシャーロック

◯ノーバリさんへの推理。これはS2E3でのゴシップ記者キティ・ライリーを看破して怒らせたことそっくりです。SHは誰に対しても手厳しいのですが、特に女性で仕事を頑張っても報われない、金もない、ひとりぼっち、みたいなことへの配慮がいつまでも足りないSH。メアリの今までの人生も絡み、刺さります。

◯E2でのプールでの闘い。モリアーティがらみと思っているからS1E3での雪辱戦とばかりに戦うシャーロック。でも間違いだった。

◯入院中のSHと敵の対決。これもS3E3のマグヌッセンのようだけど、相手が全く違うタイプで捕まった事すら喜んでいる。

◯221Bの家宅捜索。何度かありましたね~。あの実験セットが「クッキング」に使われているのに笑いました。『ジェシカ・ジョーンズ』では化学実験セットはジャンキーの間で人気なんていうセリフもありました。捜査のためにSHがジャンキーのふり、モリーに診察されるというのもありました。

◯窓から落とされるSH。S2E1では、221Bに侵入したCIAをSHが2回以上窓から落としているが今度はハドソンさんにされる。そしてハドソンさんはこの時も今回も大活躍。

全てダメなシャーロックとして描かれています。
最大の失敗は守ると言いながらメアリーとジョンを守れなかったこと。

そしてE3ではS2E1ボンドエアーの死のフライト再び。振り返ってみるとやっぱりボンドエアーのエピソードは好きです。S1E3の爆発、グレートゲームのトレース。S1E1からのジョンの毛布もね。

そしてこの構造も全て記憶をじょじょに蘇らせるための方策だったのか。


■偶像は虚像
人は親しい間柄でもお互いの虚像を見ているし、自分の思う自分も、人から見られる自分も、そうなりたい自分も、相手が望むようになりたい自分も、人に見せない秘密の自分も S4で見せている。偶像は虚像、ヒーローだって万能ではないただの人間だという話だと思います。それをSH、JW、メアリー、ハドソンさん、さらにマイクロフトまでもが見せていっている。レストレードがランチデートの予定があるという何気ない会話にもひそませてある。虚像とかそういうものが絡んで、今までとは違う面がキャラに出て、それも人物設定の許容範囲だと思います。その辺りもE3への引きだったりするわけで…

そしてE2ではブログへのファンの反応、メアリーが帽子をかぶれと何度もジョンに言うのも、JWとSHがごちゃまぜになって、虚像と実像がよく分からないことになっている。SHもジョンのブログに批判的だったのにすっかり受け入れ自分と同化している。もしかしたらSHにもメアリーが見えているのかと思わせる演出でこの3人がモザイク状になっているのがE2だと思います。

他の登場人物から見たSHが今回クローズアップされています。そこにもやはりSHが思っているほど能力のある自分ではないことが描かれています。また原作の時からレストレードはホームズの解決した事件で手柄を立てていますが、今回それをよしとしていないことが明かされました。これもSHの勘違い。E3では、兄弟間で見ているお互いの像と、親から見た子どもたちの像がイコールではない。考えてみたらごく現実では普通のことなのですが、そうなんだよとドラマの中で言われると、彼らはずっととらわれていたことを改めて感じるのでした。

■ジョンとメアリー
E1までSHはとても能力主義。犬との捜査の際も、ジョンを置いて有能なメアリーと行こうとする。ジョンの能力はひらめきを与える聞き手でしかないと思っているようで、バカにした発言炸裂です(そういう人だって話で批判はしません)。でもジョンの価値ってそうじゃないよというのがE2だったと思います。その気になれば元軍人は戦闘能力も高い。病院でボコボコにされたSHは、JWがタガが外れるほどのメアリーの死への怒りと自分の償えない責任の大きさを悟った目を一瞬していました(うまいよね)。最後のセラピストとのシーンは、幻のメアリーがジョンに同化されたっていうのが、メアリーのような紺のシャツをジョンが着ていることに表現されていると思いました。幻のメアリーは、死のショックを受けたジョンが自己防衛するために作り出した精神的な導師の役割を持つ自分の分身なのだろうと理解しています。

■日の元に偶然はない
マイクロフト語録です。S1のメアリーの逃避行、サイコロを投げるように偶然に任せて逃げていました。「自分たちは最強」とお互いの能力を買っているメアリーはそれで十分AJがついて来ると思っていたがそうではなかった。AJは自由になってからメアリーを見つけられなかった。SHと「メアリー」という名前が分かってネットで写真を見つけられたのです。「ネット探偵」と言われるSHを見ているとインターネット万能のような気になりますが、裏をかいてAJのようなケースもあり、マイクロフトやマグヌッセンのように全てを知っている人物もいる。

E2まで、どこまで誰かに操られているのかわからないと思わせるのも上手いなと思いました。ジョンのメールの呵責、メアリーは約6年前から普通の人として生きているとしたら、マグヌッセンとカルバートン・スミスも繋がりがあるとしたら(有名人なのだから面識くらいありそうだし)、色々妄想が湧きます。

■仕事とアドレナリンと依存
SHがツイッター依存か、バカの演技か。
JW=アドレナリン・ジャンキー。彼の見るメアリーは、パートナーの死の悲しみさえも「Game is on」であれば埋めあわせられるという顔をしている(そこは似た者夫婦)。パートナーと事件が同価値でいいのか否かを言いたいわけではありません。事件があればハイになれる。
「悲しみは仕事で癒せ」というのは原作からの引用、忙しくしていれば考え込まなくてもいいのですが、現代では仕事でも脳内もハイになれる。誕生日のケーキの糖分でハイになるのも悪くないというSH。仕事依存、自己肥大、能力過信、みたいな。
現代人、ちょうどいいラインがよく分からない。


■強い女性
S3と『忌まわしき花嫁』でメアリーの能力が高すぎるとも言われましたが、S4では女性キャラが強くなってあの人物も女性だったのかと。マイクロフトにも女性の上司がいて、このスモールウッドさんの存在感が強くなってきたし、ハドソンさんにも爬虫類と言われたり。さらには「あの女」の存在がまだSHの中にはある。これも意図的にやっているのだと思います。原作のホームズも能力のある女性は認めるという人物でした。あの時代はそれだけでもホームズはニュートラルで先進的と描けたかもしれない。SHは金魚鉢の金魚だったのか、彼の世界に強い女性が顕在化してくる(シャーロックの膨張が正されたので相対的に女性が強くなった感じ)というのがS4だと思います。サッチャーといえば「鉄の女」と言われた英国初の女性首相ですが、そのサッチャーがモチーフとして使われていることにもうなづける。ただ単にナポレオンを現代英国に置き換えたからサッチャーというだけではないだろう。

メアリー、ノーバリ夫人、キティとか、そういう人物造型が刺さります。メアリーの死の場面で「ジョンは、家族、家、赤ちゃん、落ち着いた暮らし、私の欲しいもの全てをくれた」といいます。仕事人間のメアリー、いろいろ代弁していると思います。『SHERLOCK』にはまった理由の一つが、戦場帰りのジョンの設定でした。人生のいい時期を軍隊で過ごし、サマータイムが終わり友人も家族もなく平穏な世界にたった一人放り出される。2010年代に作られたヒットドラマのターゲットにひと段落した中年をドラマに呼び戻したいというのがあったそうです。そう若くないジョンに新しい出会いがあって子どもも生まれる。現実でも妊活なんて言葉が普及したように医療技術が上がっても若くないと難しいとみんなが痛感する。短い間でもメアリーにそういう幸せな時期があって良かった。似た者夫婦で、現代人が共感しやすい設定に思えました。

また6年前ジョージア国で一人生き残ったメアリーはチャンスだと思ったような気がします。過去に捕まったメアリー。AJを倒してもまた次が現れるかもしれないし周りを巻き込むだろう。最強と思っていても大量に殺し屋を送り込まれたら勝ちようもないと自分でもよくわかっていただろう。それほど都合よくメアリーというキャラを葬ったようには思いませんでした(5エピソード+映画の登場)。知らずにスパイの女性と結婚している依頼人が出てきました。スパイものも英国のお家芸、スパイは結婚さえも利用する、ル・カレとか、『ELEMENTARY』にも任務で結婚生活を送って娘もいるロシアスパイの男女がいました。この依頼人はメアリーが裏のない結婚をしていたというための登場だと思いました。

SHERLOCK』は媚びているという気もしないし、やりたくないことを無理にやっている感じでもないし、むしろその反対。素直な脚本家ではないと前から思っています。このドラマの登場人物も何かをかかえていて幸せいっぱいな人なんか出てこない。S4は膨張していったキャラクターたちを、卑小化というか等身大に戻して、成長させるということなのだろうと思います。再生、更新、成長、でもあり、うるわしきマンネリの楽園でもあり。そういう意味で結末についても、見たら納得しました。

すでに死んだ人とあの人の扱いは好みです。それは絶対して欲しくはなかったから。
E3全体とお遊びについてはまた今度書きます。


bomb.png

「アモ」は最初からamo(愛)を思い浮かべたので、
ammo(弾薬)とのダブルミーニングによっしゃと思っただろう。
amoの派生語はami、amitié、amigoもある。

Faith(信念)とvow(誓い)も近い?

Happy birthday!

50thbdsmall_blog.png

追悼 Chester Bennington/Linkin Park





これは『LITTLE NICKY』のサントラ





RIP Chester Bennington BEST OF LINKIN PARK
どんどん上がってくる…いい曲いっぱいあるね

Rhys filmarathon / リースと悪女

いよいよ、『SHERLOCK』S4放送です。今週はシャーロック関連番組がたくさん放送されました。7/8(土)Eテレでもトム&ジェリーのホームズ放送だって。「世界ふれあい旅歩き」までノッティングヒル。ノッティングヒルといえばリス・エヴァンス。もともとBBC『SHERLOCK』を見たのがきっかけで、むかしむかしのイギリス好きが再燃、さらに映画『パイレーツ・ロック』が大好きになったのをきっかけに、リスさん映画マラソンをやっています。当初3ヶ月くらいで終わるつもりが、まだ終わっていません。7月半ばにD-Lifeでスパイダーマン過去作『アメイジング・スパイダーマン』放送です。リスさんは悪役のリザーズで登場。前々回の『グリーンバーグ』は見てから1ヶ月くらい寝かせていて、また見るかなと思ったまま見直す機会もなく、最近リスさん映画から若干遠ざかっていたので、やっぱり良かった『悪女』です。

『悪女』(Vanity fair)2004

文芸作品つながりで
『悪女』は有名なサッカレーの小説『虚栄の市(Vanity fair)』の映画化。
録画していた監督ジョー・ライトさんの『アンナ・カレーニナ』を見ました。『アンナ・カレーニナ』は学生の頃読んだけどストーリーを忘れていたのも当然のちょっと苦手なやつでした。リスさん映画でDVDを寝かせていた、2004年の『悪女』も流れで見ることにしました。イギリスの得意な文芸ものコスチューム作品で、どうして21世紀にこの映画を作ったのだろうと期待していなかったのでとても良かったです。

■リース問題
ヒロインはアメリカの女優リース・ウィザースプーン(『キューティブロンド』とか)、リスさん出演作『リトル・ニッキー』では天使役、アメリカ的明るさ全開のイメージの人です。リスさんのRhysはウェールズの名前ですが、『ELEMENTARY』S1ではゲストのジョン・ハンナさんがRhysという役名で、シャーロックもジョーンも意識して長めに「リース」と発音している感じでした。二人ともリースかい?英語記事でも発音に関して、Rhys Ifansはthis Ivansみたいに聞こえるというのがあり、リスさんは多分短目の発音かなと思います。私がリスさんと書くのは、ゾウさんとかヒツジさんの幼児コトバ風がミスマッチなのであえてです。カタカナ表記には写しきれないリース問題でした。

■ストーリーと感想(ネタバレには配慮しています)

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ベッキー・シャープ 上昇志向の美貌で才覚のある女性
アミーリア・セドリ 寄宿学校の同級生でベッキーの唯一の友人、商人の娘
ジョージ・オズボーン大尉 アミーリアの婚約者で富豪の息子、軍人、歩兵、爵位が欲しい上昇志向
ロードン・クローリー大尉 ベッキーの雇い主クローリー家(準男爵)の次男、軍人、この人だけ多分騎兵
ウィリアム・ドビン大尉 ジョージの友人、歩兵
ジョス・セドリ アミーリアの兄のインド駐在、時々イギリスに帰国
ステイン侯爵 ベッキーの父の絵の蒐集家

原作は未読でストーリーを知らずに見ました。軍人の青年が3人出てきて、リスさんはそのうちの一人、ドビンさん。恋愛がらみで友人を陥れたりするのかと思っていましたが違い、見たら納得するキャスティングでした。

対照的な女性ベッキーのクローリー家とアミーリアのセドリ家の二組の家族の話で19世紀初頭のイギリス、ナポレオン戦争の時代
が舞台です。ヒロインのベッキー・シャープは、貧乏画家の父とフランス人オペラ歌手の母の娘で幼いうちに孤児になり、女子の寄宿学校の下働き兼任の学生として引き取られます。彼女は身分が低いがフランス語と音楽が堪能で、田舎の住み込み家庭教師から美貌と才覚で世渡りをしていく物語です。


■悪女
ヒロインベッキーがアメリカの女優なのもイギリス上流社会での異質な人として描くためなのかもしれません。とても表情豊かな女優さんで、周りのイギリス人女優さんは感情を抑えた演技なので対照的です。
独身時代のベッキーはadventuristと表現され字幕は「野心家」、身分の低い玉の輿志向の女性のことで、ホームズに出てくるオペラ歌手アイリーン・アドラーにも使われていて、実際に映画の中で見るとどういう感じかというのがよくわかりました。ベッキーは母親がオペラ歌手だったことで蔑まれるし、フランス語が堪能なことも逆に素性が怪しいと軽蔑のネタになる。

寄宿学校を卒業したベッキーは田舎のクローリー家の住み込み家庭教師になります。家庭教師という身の上の心もとなさが丁寧に描かれています。彼女は伯母の財産を相続予定の次男ロードン・クローリー大尉と結婚。ベッキーはある侯爵の力を借りて上流社会に入り込もうとします。侯爵は、早くから上流社会にいるものはそこが「虚栄の市」であると気がついているので変にあがく事はないと言います。他の主要人物も上流の生まれではなく富豪で金にモノを言わせて上流社会に入ろうとしています。当時は植民地から莫大な富がもたらされ、富裕な商人もたくさんいる活気のある時代です。身重のベッキーとアミーリアがナポレオン戦争の中逃げるところは『風と共に去りぬ』みたいでしたが、解説によると『風と共に去りぬ』は『虚栄の市』に影響を受けているそうです。

■ドビンさん
『悪女』は独身の登場人物の結婚をめぐる一時期の話かと思っていましたが、昔の小説だけあって十数年間の人間ドラマが描かれています。その中でもドビンさんが一番変化して、演じているリスさんは30代後半ですが三つの年代をみられます。クセのある役柄が多いのでピュアな青年時代が貴重。でも好きなのはインド時代です。

登場人物の中でもドビンさんが一番好きです。
2番目はベッキーの兄嫁のジェーン。この人が一番ニュートラルで愛情深い人だと思う。

リスさんはブロンドのイメージのせいか髪色をあまり変えないのに、この役ではブラウン(赤毛?)でした。ヒロインも赤毛(地毛はブロンド)。二人とも一途で、アミーリアの親友で、ジョージの本心を知っておりと共通点が多い。赤毛の範疇がわかりませんが、二人はアミリーアが好きな赤毛連盟なのかもしれません。ドビンさんの設定の説明はほとんどなく(原作では富豪の息子らしい)、本のたくさんある地味なお部屋に住んでいて、戦争前の夜会で酒も飲まずアミリーアをずっと気遣う実直な人だけど、ちょっと鈍くて押しが弱いけど彼女のためにジョージの父親の怒りを溶かそうとしたり、アミリーア一筋な役どころです。
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本人及び親の上昇志向から虚栄を求めて踊らされ、最初から手にすることができた幸せに気がつかない遠回りと読むのか、苦労したからこそ本物の幸せがわかるのか、象徴的に青い鳥が出てきます。
映画的な明るいハッピーエンドでしたが、特典には違う結末も入っていて、現実的ないいエンディングでした。この映画ではどちらが正解とか間違いとかではなく二つを時系列的に繋ぎにくかったように思います。タフで明るい主人公のおかげで楽しく見られました。

■バックグラウンド
インドロケや戦場のシーンもある大作でした。衣装デザインも鮮やかでカラーリングが現代的でした。
キャストは、ミス・マープルのジェラルディン・マクイーワン、ベネさんの奥様(ジョージの妹のマライア嬢)、ロモラ・ガライ(『ドミニオン』ではリスさんの奥さん役で再共演)、ナターシャ・リトル(『Mr. Nobody』でリスさんの奥さん役、『イビサ・ボーイズ』にもちょっと出てくる)、『パイレーツ・ロック』のトム・スターリッジなど今みるとっていう方がたくさん。アミリーアのロモラさんはこのとき20歳くらいなのに堂々としてすごい。

解説映像を聞くと監督はインド育ちのインド系の女性で、この小説が学生の頃から大好きなのは、200年前の小説なのにとても現代的な強いヒロインが描かれているからだそうです。サッカレーもインドでこの小説を書いたとのこと。監督をはじめスタッフも大半が女性。リスさん出演『ナニー・マクフィー 空飛ぶ子豚』も製作陣が女性の映画で、そういう作品を選んで出ているのもふしぎ。

昔の小説は、古臭く教訓めているような気がして魅力がわからないものですが、イギリスは文芸作品を現代でも共感できるよう生き生きと描くのがうまいといつも思います。原作についてのwikiは読んでも興味がわかないので、映画のストーリーがうまいのだろうと思います。

文芸作品もたまに見るといいので『ボヴァリー夫人』もまた見たくなりました。『アンナ・カレーニナ』、『ボヴァリー夫人』、『悪女』、ヒロインに共通して濃い紫のドレスが象徴的に使われているのって裏切りという意味でしょうか?『SHERLOCK』S3のジャニーンのドレスの色もそういうこと(不貞でなくて裏切り)?本作でアミーリアの着ている薄紫は未亡人の着る色です。

Fan art of "The Boat That Rocked"

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Katherine Parkinson as Felicity in "The Boat That Rocked"

Rhys filmarathon / Evergreen

『グリーンバーグ ベン・スティーラーの人生は最悪だ』(原題 Greenberg 2009)

greenberg.jpg
image from IMDb



『グリーンバーグ』の初見の感想です。そのうち見直して書き足したくなったらまた書くかもしれません。
リス・エヴァンス作品、いよいよ日本版が出ているものを見てしまったので(もったいなくて見れずにキープしているものもあります)海外版に手を出しました。後で知りましたが、アマゾンビデオで邦訳のものが見れます。

邦題サブタイトルは忘れていて、大人のラブコメだろうなという予想であらすじを読まずに見ました。ヒロインの女優さんが6月公開の『20センチュリーウーマン』出演、『フランシス・ハ』に主演。どちらも気になりつつまだ見ていません。

『グリーンバーグ』、わ、人生最悪…
英語字幕頼りに見て、大筋は分かったけど、細かい設定とかわかっていません。結構ネタバレします。
主人公のロジャー・グリーンバーグ(ベン・スティーラー)はNYから故郷のLAのに久しぶりに戻り、家族でベトナムに6週間行く兄の家の留守番をすることになります。おっきいワンちゃんもいるので、犬の世話も。もうすぐ40、独身、大工、元ミュージシャン。兄には個人秘書兼家政婦というかお買い物や細々した家事もやってくれる、若くて美人のフローレンスがいて、わからないことは彼女に聞いてねと連絡先が残されている。ロジャーは、昔のバンド仲間のアイヴァン(リス・エヴァンス)に会う。アイヴァンは昔の友達のパーティに連れて行ってくれるが、子どもが主役のホームパーティでロジャーは場違いだと毒づく。ロジャーはパーティで昔の彼女ベスに再会、彼女は子持ちのシングルマザーらしく、彼女への気持ちが再燃。フローレンスともいい感じになりそう?

ロジャーは終始いらいらしていて、周りとずれて神経質で自己中なので疲れますが、ベン・スティーラーさんがうまいんだと思います。車社会のLAで運転のできないロジャーのためにフローレンスかアイヴァンが車を出してくれます。アイヴァンはバツイチで独身らしいですが、ヒゲもじゃロン毛。呼ぶと無理してきてくれたり、いい人です。フローレンスもアイヴァンに会って、「He is nice.」とロジャーに言う(話題があまりなかったんだと思う)とロジャーは「アイヴァンとは大学で出会ったんだ、イングランド出身で、見た目もかっこいいしヨーロッパ風でセンスも良くて」といった感じで褒めます。この時のリスさんは40過ぎで、ヒゲとロン毛でぼさっとしていて普通の人っぽくて好きです。お腹も出てる…。リスさん出演アメリカ映画を見ていると、だいたいイギリス人かウェールズ人だと説明が入ります。アイヴァンは自宅で一人わびしくテレビを見ているシーンがありましたが、あとで結婚指輪をしているのが映っているなと思っていたら、別居している奥さんと息子がいるらしく、ロジャーは近況とかそういうことをちっとも聞いてあげない人のようでした。フローレンスは遊びの相手の子を妊娠していて中絶手術を受けることになり、なぜかアイヴァンが車を出してロジャーとフローレンスを病院に連れて行き、どっちも父親じゃないのに佇む二人。そしてアイヴァンが花でも買ってきてあげようと言うと、ロジャーは手術したら腹が減るに決まっていると主張してハンバーガーを買っていました。ロジャーはそういう人です。ロジャーは、兄は幸せそうで「同じ親から生まれたのに」と愚痴。そして今はコンピューターで作る音楽ばっかりだとブツブツ。彼が言っていることは、自分の身に置き換えて自分で選んだことは言ってもしょうがないと思っているので…。そんな40男の恋の話で希望のある終わり方でした。グリーンバーグは青山さん(もっといえば常盤山さん)であり、まだ人生終わりじゃないという意味なのでしょう。ジュノー・テンプルちゃんもちょこっとだけ出てきました。また観直したら感想も変わるかもしれません。


映画『パイレーツ・ロック』はやっぱりいいなあと思います。1966年のイギリスに民放ラジオ局がなかった時代の海賊ラジオ局の話。昭和にすると41年で、トランジスタラジオ、ビートルズ、の時代です。MTVが始まってラジオが低迷した80年代、ミュージックビデオがラジオスターを殺すという『ラジオスターの悲劇』という有名な曲がありましたがそのことには触れず、2010年ごろも200以上の民放ラジオ局が放送中と締めくくっていました。男二人の中年の危機問題も含みますが希望ある終わり方でした。


『イビサ・ボーイズGo DJ』(原題 Kevin & Perry Go Large 2000)

これを見るとは思いませんでしたがネットで知り合ったファンガールさんのお勧めで見てみました。彼女も音楽関係の役をやっているリスさんが特にお好きらしい。レビューに「バカバカしすぎて人生観変わった」と書かれていて、むしろ「変えてくれ」と思いましたが、すでに見たリス・エヴァンス作品がキョーレツで、もはやそれ以上変わりませんでした。英国で公開初週の観客動員数が『リトルダンサー』を抜いたそうです。トータルでどうだったのかということは書かないもんだよねー。主人公のもてない高校生の男の子二人の初体験旅行の話。この二人を30歳くらいの俳優とキャシー・バーグさんという女優(中年です)が演じている。キャシー・バーグさんは『裏切りのサーカス』で、カーラの正体に一番初めに気がついていた女性役で、家に訪ねてきたスマイリーにちょっと迫っていたのが印象的でした。このキャシー・バーグさん、『ロンドン・ドッグス』、『ダンシング・アット・ルフナーサ』に次いでリスさんと共演3本目。リスさんはアイボール・ポールという人気のクラブDJの役。特典インタビューでは「薬中でいじめっこキャラ」と言うてはりました。主人公のケヴィンとペリーはDJになりたくて、いや、もてたいからDJになりたくて、憧れのアイボール・ポールにイビサで会い自分たちのミックスを聞いてくれと頼むのですが、聞いてやるから家の掃除をしろと命じられる。何回そんな目にあっても全くめげずにポールはすっごくいい人だという超前向きな二人がけっこう羨ましい。リスさんのDJのシーンはやっぱりカッコよかったです。しかし、嫌なにーちゃんなので運転手兼付き人には嫌われていて運転中に急ブレーキをかけられポールは顔からガラスに突っ込んでいて痛そう…。超明るいおバカコメディでした。

Rhys Filmarathon /犬の好きな教授

『憧れのウェディングベル』(原題 Five Years Engagement)2012

本日は「インターナショナルネイキッドバイクレース」というのがロンドンで開催されたという話題がネットに上がっていました。リベラルな人々の政治運動もかねたイベントなのだそうで裸の自転車レースです。すごいな、イギリス人。イギリスコメディを見るにつけ、これでいいのかという気持ちになりますが、まだまだ自分、小さいことで悩んでいるなあと思いもします。

今回は、リスさんマラソンも終盤戦でわりと最近のアメリカ映画で全然ぶっ飛んでいません。
原題は「5年の婚約期間」で、長すぎる婚約期間中のいろんな障害を描いたラブコメだろうと予想していました。

主人公はサンフランシスコに住むフレンチの料理人のトム(ジェイソン・シーゲル)とイギリス出身のバイオレット(エミリー・ブラント)というカップル。二人は出会ってから1年後に婚約と、そこまではとんとん拍子に進んでいました。バイオレットは大学の研究員の職に応募していましたが、地元では採用されず遠く離れたミシガンの大学に2年間の契約で採用されることに。トムはスーシェフ(副料理長)をやめて、料理人ならどこでも働けると一緒にミシガンへ行くことにし結婚は延期します。一方トムの同僚の少しおまぬけなアレックスは婚約パーティで出会ったバイオレットの姉(字幕は姉だが妹に見える)とさっさと出来婚します。

バイオレットの大学での上司、社会心理学の教授ウィントン(リス・エヴァンス)が障害として登場します。ウィントンはウェールズ出身の40代独身男性、それなりに財産もあることをアピールしています。一方トムは30代半ばのちょとふっくらな料理人。トムはミシガンでは思うような店が見つからず、だんだん腐っていきます。トムとバイオレットはどうなるのでしょうか。

リスさんはトムに陰で「おじいちゃん」と言われていました。リスさんはやっぱりちょっと変な人で、スポーツもしているので運動神経はまだ衰えていないという(ひどい‥)それなりにおもしろい見所はありましたが、スタントは別の人かな。リスさん、凍てた道路を革靴で走るのは大変だったと思います。彼は大きいワンちゃんを飼っていて、また犬好きの片鱗を発見しました。

ディスクには全米で5週上位にランクインしたと書かれていますが、この映画はちょと苦手でした。
人生は障害物のない時なんかない、思った時に実行すべしという話です。それはいいのです。
折り合いをつけるのが下手な主人公二人。宗教も違うので教会選びにも悩むし、パーティ会場もいいところは3年待ちだったり。結婚式というイベントへの熱意とこだわり(これは親や親族のためでもある)、すでに運命を共にしている実生活、法的な婚姻という問題が問題としてとらえにくいというか。社会と文化が違うのでその辺の感情がわかっていないと思います。仕事と結婚と利己的な選択というのがテーマで、形にこだわらなければ道は見つかるという答えでした。

何が苦手なのかなあと考えてみました。
最近の自分の好みから、テンポとコメディのセンスが合わないようでした。空気の読めないアレックスの歌(2回もあるのだ)が長い、リスさんの犬の名前がウェールズ語で発音が難しいというシーンが長くダレました(せっかくのリスさんのシーンなのにね)。
笑いの部分はやりそうなことばかりで、もっとしれっと変なことをするっていうのが好きです(イギリスものとか、ブレイキング・バッドとか)。トムの勤務先の店長さんは見た目が少し変で潜在能力高そうなのになともったいない気がしました。露悪的なセリフを多用しているがそれほどおもしろくなっていない。以前見た『マイ・ファニー・レディ』はすごくしゃべる映画でしたがドタバタのテンポがもう少しよかったらと思ったので、言葉よりもシチュエーションでおもしろい方が自分には伝わるようです。

ストーリーはラブコメにしてはビターなわりに都合がいいというか。
そしてトムが好きになれません。バイオレットが酔った勢いで教授とキスしてしまったことを告白したのですが、そういう空気出したんだろうと責めるのもなんだかなあでした。二人がうまくいっていないことがしんどい。バイオレットは心理学をやっているのに疑わなさすぎ。教授とつきあっているくせに、助教授枠に応募して合格すればなんらかの力が働いたと思う、普通は。本当に実力のある人でもそう思ったり、人からそんな目で見られたくなかったりするはず。バイオレットは自分の提案した実験で、「古いドーナツを置いておき、30分後に新しいものが出るが待っている間に古いのを食べるのは自由」とした時、問題を抱えている人は古いドーナツを食べてしまうと結論づけ、トムとの関係を古いドーナツに例えています。教授のウィントンは、彼女の気を引きたくてその実験を褒めた事を後に明かします。トムは現実には新しいドーナツが必ず来るとは限らないし、古くてもまだ食べられるものならいいじゃないかと言うのですが、人間は新しいとか古いとか一元的には計れません。

お葬式と結婚式を絡めているのはヒュー・グラントの『フォー・ウェデイング』(原題は「4つの結婚式と1つのお葬式」)を連想。こちらはアメリカ女とイギリス男の話。バイオレットの父親の再婚相手が若くてしとやかな中国人女性だったのが時間が経つと日焼けしてワイルドなルーシー・リュウみたいになっていたり、トムの元上司の女性シェフに同性のパートナーができていたりは『ノッティングヒルの恋人』のセリフで語られないストーリーのようでおもしろかった。ゴリゴリの王道ラブコメを期待していたので、王道には王道の良さがあるなあと思ってしまいました。


妄想ウィントン

教授、ワンちゃんかわいいですね。

(ウィントン)犬はいいね、散歩していても話のきっかけになるし女性ウケもいいんだ。特に難しい名前、ウェールズ語で「奇跡」とつけているからね、それでも時間が十分もつんだよ。私がひとりで歩いていても何にも起こりゃしないんだから。犬はいいね!

そういう理由でしたか、ちょっと複雑です。
教授、お料理得意なんですね。

(ウィントン)もともと料理は得意なんだよ、女性ウケもいいから。他の映画でも披露していただろう、おっと、これは中の人のことだ。でもね、トムが料理人だったから負けられないと思って必死で勉強したよ。まずは胃袋をつかめって言うだろ?トムのおかげで、料理の腕もグレードアップしたよ。

意外と負けず嫌いなんですね。昔の役でマヨネーズとヨーグルトを間違えた中の人とは思えない変身ぶりです。中の人はウェールズ料理を作るのがお好きと言われていましたね。
教授、本当にカナダの別荘とイギリスの農場をお持ちなんですか?

(ウィントン)ど田舎で小さいものだけどあるよ。私もトムがいなくなるまで彼女には黙っていたんだから、あまり非難しないでね。

教授、彼女を終身雇用の可能性もある助教の職に推すなんて、ずいぶん腹黒いですね。

(ウィントン)嫌なら断るさ。腹黒いっていわれても、みんなそんなもんだろ。そばに置いておきたかったんだから。それに私は心理学の研究者だよ、登場シーンを覚えていないの?彼女を操るのなんか簡単だよ、それに二人にとっては荒療治になるかもしれなかったんだから。私も意外と良いところあるだろう?

とってつけましたね。本当はそんなことは思っていなかったくせに。
ほら、時には利己的になれ、でしたっけ?それと支配したがりでしたね。

(ウィントン)それは心理学者のサガだからね、仕方がないよ。私に言わせれば世の中はすべて実験なんだよ。それからキミ、失礼な人だね。

ウィントンはとくに嫌いでも好きでもないです。多分、見えないところで努力していると思います。努力するあまり自分でなんでもできるようになってしまったのではないでしょうか。

SHERLOCK S2E3 ライヘンバッハヒーローと”A case of identity”

先週に続いて週一復習、今回は再放送ではなく以前の録画を見ました。
最初に見てから何年か過ぎて、その間にホームズを読みなおしたり他のイギリス映像作品を見たことなどから、また違った気づきがありました。こういうのも、とっくに色々な方がいろいろ書かれていることとは思います。若干ネタバレするかもしれません。

キャスト
今見るとあの人だという人を発見します。ずっと前に書いたことがある『SHERLOCK』S1E1のキャビーさんも映画『さらば青春の光』の方でしたし(関連記事:Intermission Modsの後継)。
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スティング(一番背の高い人 )の左隣の人

以下他の方についても書いてみます。

■キティ・ライリー(Katherine Parkinson)
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この会の重要な脇役のキティ・ライリー、演じられているキャサリン・パーキンソン(Katherine Parkinson)さん、今見ると「IT CROWD(はい、こちらIT課です)」というヒットしたシットコムのジェン役の人。S1しか見ていないけど、はまります。答え合わせでIMDbを見たところ映画『パイレーツ・ロック』でレズビアンのフェリシティもされていたのでした。黒髪で60年代メイクでこちらも大好きな役です。最初見たときもかわいい方だなと思っていたのですが、自分の好きなタイプの顔なんだなと思いました。『パイレーツ・ロック』では「IT CROWD」のクリス・オダウドさん(最近作は『ミス・ペレグリン』)も共演。
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(関連記事:偶然にも最高のリス・エヴァンス

■コニー・プリンス(Di Botcher)
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こちらは『SHERLOCK』S1E3の変身ショーのMCで被害者役ですが、『Twin Town』のお母さんだ!と嬉しくなりました。同じ人と結びつきませんでした。(関連記事:Keep calm and wait Twins.
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■近衛兵の人
S3E1の被害者の近衛兵の人、『殺人を無罪にする方法』のウェスをやっている人でした。


ストーリーとモチーフについて
■ターナーのライヘンバッハの滝
イギリスを代表する風景画家ウィリアム・ターナーというのは前にも思ったのですが、『SHERLOCK』以降いろいろイギリス作品を見ましたが、やっぱりターナー風(本物かどうかはわからない)の絵画はよく登場します。暖炉の上とか、ギャングのボスの部屋とか。

■ダイヤのカフスボタン
絵画『ライヘンバッハの滝』を取り戻して、シャーロックはお礼にダイヤのカフスボタンをプレゼントされていますが、ここ、ダイヤだったんだと思いました。後でモリアーティがロンドン塔でダイヤを使っていることと対になっているのだろうと思います。

■耳当て付きディアストーカー
スコットランドヤードの皆さんからもディアストーカーをプレゼントされています。シャーロックは221Bでわざわざ「耳当て付き帽子だ」と耳当てを下ろした状態で持っています。ホームズといえば耳当てのリボンを頭の上で結んだスタイル。S3E1のマイクロフトとの帽子推理合戦のシーンでも出てくるのが耳当てのあるニット帽。映像作品を見ていてよく思うのが、耳当ての象徴は「耳が聞こえない、人の言うことに耳を傾けない、耳を塞いでいる」人物ということ。ミシェル・ゴンドリー監督映画『恋愛睡眠のすすめ』でもメキシコから来た主人公ステファンが耳当て付きニット帽をかぶっていて、特に人からあれこれ言われたくない時は目深にかぶっています。小説『ライ麦畑でつかまえて』の研究書には、主人公がかぶる耳当て付き赤いハンチングにそういう意味が込められているとあったような気がします。これを読んだ頃は考えすぎではと思ったのですが、他の作品でも耳当て帽はそういう扱いなのでそういうもんだろうと思いました。また、ゴンドリーさんは作品の中で象徴とかそういうものをとてもよく使っている方です。
SHERLOCK』では、その後モリアーティがイヤホンをしてロンドン塔の事件を起こしているのと対になっているようです。

■ロンドン塔の鴉
衛兵さんが代々飼っているというのをTVで見たことがあります。レイブン(大鴉)でクロウ(烏)とは分けて呼ばれているそうで、ポーの詩に書かれているとか。

■宝冠
現代のモリアーティが狙う場所として最も難易度の高い3か所の一つとしてロンドン塔が選ばれました。そういう意味でも納得ですが、「宝冠」は原作の中では「緑柱石の宝冠」「マザリンの宝石」を思わせます。

■ボイラー修理
モリアーティの公聴会の時に「商売で犯罪を請け負う人」という説明をしているシーンにボイラー修理はしないとかなんとか出てきました。全く関係ないかもしれませんが、モンティ・パイソン美術担当だったテリー・ギリアム監督『未来世紀ブラジル』にボイラー修理人(しかもロバート・デ・ニーロ)出てきたのを連想しました。原作の『犯人は二人』でホームズが配管工に変装してミルヴァートン邸に潜入したことからか?

■蒔絵のお盆
モリアーティの来訪を予測してシャーロックがお茶の用意をする場面。ティーセットの方はネットで話題になり、そちらばかり見ていたので見落としていたのですが、お盆は日本の蒔絵のものに見えました。もしかしたら中国の骨董かもしれませんが、ドイルは日本のものを登場させていた(正倉院、バリツなど)ことから日本のものかなと思います。

■モリアーティのキャビー
原作ではマイクロフトが御者に変装していました。グラナダ版ホームズでは「マザリンの宝石」でマイクロフトの御者が登場しています。

■A case of identity
日本では「花婿失踪事件」というタイトルで知られていますが、男子トイレでシャーロックが待ち伏せしていた記者のキティ・ライリーの推理をする場面の元ネタです。ドラマの中の手についた圧迫痕、指についたインクは「花婿失踪事件」に登場し、依頼者メアリー・サザーランドの職業がタイピストかミシンを使うお針子と推理します。キティはスカートの丈を直していることから、流行の丈のスカートが買えない→給料が安い、特ダネを狙うハングリーな三流記者の根拠の一つにしています。メアリーの方は、流行の派手な身なりをしていることから、かなり裕福と懐具合と仕事を推理しています。

原作のストーリーは、メアリーが結婚式の日に花婿にドタキャンされる話で、その花婿は素性を偽ってメアリーとつき合っていた疑いがあり「身元(アイデンティティ)に関する事件」とつけられています。キティはメアリー同様、素性を偽ったモリアーティ(リチャード・ブルック)に振り回されます。S2E3のテーマがシャーロックがfake(偽物)かどうかという”A case of identity”なんだなと思いました。それに対して、これも以前に書いたことがありますが、誘拐された女の子の持っていたグリム童話の本の中の「Faithful John(忠臣ヨハネス)」というタイトルが一瞬映ります。ジョンはシャーロックのことを信じていました。(関連記事:Faithful John

■Fairy tale
フェアリーテイル、童話、寓話です。前回(バスカービルの恐犬家事件)のコンティグリー妖精事件のフェアリーとドイルから、繋がっているかも。ストーリーの中で「コンピューター神話」の盲目的信仰の裏をかくモリアーティ。寓話対現実というテーマもあります。コンピューターの0or1のバイナリコードも登場しますが、ジョンが受け取った封筒に入っていた「bread cramb(パンくず)」というのもブレッドクラムリストというネット用語があります。「ヘンゼルとグレーテル」と「コンピューター」、改めてよくできているなと思います。

■You are the best man.
お墓の前でジョンは語りかけています。S2の時から言っていたのね。

当時は分からなかったことも、今だからわかることがたくさん出てきて、魅力も深まると同時に神秘性も薄れるのは仕方がないことです。モリアーティの死のトリックがあると仮定しても、少し距離を置いて見られる今なら、空砲とか協力者とかいろいろ手段はあったのだろうし、すでにbest manと言っていることからもある程度は決めて作っていたのではないかと思うのでした。公式発表は違うかもしれませんが。

(Jacket images from Amazon, IMDb)

Moonlight

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ポスター、ストーリーと合っていて美しいなあ。
イラストで真似してみました。



バスカービルの恐犬家事件

SHERLOCK』再放送中です。週一で追いかけないとS4までに復習が終わらないなあと気がつきました。特にライヘンバッハが見たい。いつでも見れると思うと見ないので、今週は再放送を見ました。録画じゃなくて。

やっぱりおもしろい。
最初に見たときは何も思わなかたのですが、「バスカービル」には「妖精」とか「ネス湖のネッシー」とか入っていました。テーマが、怪物がは本当にいるのか、科学の進歩した21世紀には人工的に自然にはいない生物を作れる、生物兵器も可能だ、でも怪物ハンターがいて未だに未確認生物を喜んでブームが起きるというものです。怪犬サマサマな状況は日本もイギリスも変わらないなあと思ったものでした。

「妖精」は、イントロのカースティ・ステープルトンという少女からの依頼メールに、「飼っていたウサギが暗闇で妖精のように(like a fairy)青く光り消えた」というもの。妖精といえば作者のサー・アーサー・コナン・ドイルのコンティグリー妖精事件。ドイルは少女二人が撮ったという妖精の写真を本物だと思い、妖精の存在を信じていたというもの。この少女二人は何十年後に捏造だと告白している。ところが、現代版『SHERLOCK』では21世紀には人工的に光るウサギを作れてしまうらしい。

もともとドイルはスーパーナチュラルな事件かと思わせて実は人間が起こしたことという話を書いていて、この『バスカービル家の犬』とか、「サセックスの吸血鬼」がそう。のちにドイルは心霊やスーパーナチュラルな方向へ傾いていきました。

もう一つの「ネス湖のネッシー」も、ホームズにまつわるもので、ビリー・ワイルダー監督制作の映画「シャーロックホームズの冒険」で使われた潜水艦がネッシーに間違われていたというのもよく知られた話です。

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Rock, comic, novels, and miles of films(3) 薦めていただいた作品3

薦めていただいた作品シリーズのトリです。

映画『帰ってきたヒトラー』

アイコニックなポスターがとても気になるデザインでしたが、ヒトラーがメインキャラのものはちょっとアレルギーがあり自分では見なかったと思います。

映画のはじめの方はドキュメンタリー風で実際にドイツ中をヒトラー役の人とTVディレクター役の人が数ヶ月かけて旅をして一般人に話を聞く形で撮影していて、伏線、結末、期待以上におもしろかったし考えさせられました。

現代にヒトラーが蘇ったという設定で、失業しかけのフリーのTVディレクターがヒトラーを特ダネとして起用する。みんなはものまね芸人と思っているというコメディです。ヒトラーは別次元の理解しがたい悪人あるいはサイコパスで決してその発言に耳を傾けないと思ってるのですが、厄介なことにバカじゃないのでTV局の人間の思惑に乗せられずに賢い発言をされるとすっと心に入ってきてしまう。そういう危うさを感じさせてくれました。口のうまい人に要注意というか、要注意な人ほど不思議なヤバイ魅力があるもので近寄らぬが吉。ここ数年、仕事がメールと電話が増え実際に人に会うことが減っているせいか忘れていました。

そして右傾化というとやや特殊なことに見えますが、まずは自国民をということ。世の中の不満はいつの時代も同じものがあるのでしょう。大戦前の世の中のムードは時代は違っても似ているし、同じ過ちに陥る危うさがある。テロも頻発して痛ましいばかりです。そういう悲しみさえも自分の政治に利用する。出世欲、難民問題、犬と優生思想、精神病、わかりやすく組み込まれていました。ヒトラーは新しく自分の部下を集め、訓練で跳び箱前転みたいなシーンもありますが、こういうのは映画で見ると「じゃあ自分はできるのか、できないくせに偉そうに」とツッコミを入れたくなります。本で読むとかしこまってしまうので映画の効用でしょう。彼のプロパガンダも、状況によって何を敵とするかは変わる。絶対ではないから、大衆が嫌いなものを敵にする、そこが危険と感じさせてくれる映画でした。ヒトラーの顔をしていない、強いリーダーシップと展望を語る政治家や独裁者、その人にアラームをきちんと鳴らせるのだろうか。そして、起こりそうないろいろなことを経て、都合が悪くなればヒトラーを葬りさればいいのか、そうじゃないだろうという結末もおもしろかった。やっぱり容赦ない強い人が生き残るのか。

メイキングやインタビューもおもしろかったです。ヒトラー役の方は有名ではない舞台俳優さんだそうで、そこはあえてリアルに感じてもらうため無名の方を起用したそうですが、本当に上手かったです。6000万人の犠牲に成り立って戦後勝ち取った民主主義を大切にしようというのがメッセージでした。難しい話をおもしろく伝えている映画でした。


ついでに自由な社会について考えさせられる映画についても書きましょう。

映画『コロニアル』と『オマールの壁』

『コロニアル』はチリのナチの残党が管理する脱出不可能な強制収容所に入れられた恋人を救うために女の子が潜入する。『美女と野獣』のというかハリポタのエマ・ワトソン主演。『美女と野獣』とか『ララランド』とか自分見た方がいいんじゃない?と思うも、こういうのを選びました。ついでにメキシコ国境を描いた『ノーエスケープ』も見たい。『恋愛睡眠のすすめ』の俳優ガエルくんが出ているし。『オマールの壁』もパレスチナの話で壁に隔てられた街に住む青年の話。どちらも国家により自由を制限された社会の話で、トレーラーを昨年劇場で見て興味を持ちました。

『コロニアル』はチリに実在した強制収容所「コロニアル・ディグニタ」の話。ピノチェト政権下で約40年間秘密警察の収容施設として運営されていた表向きは神の家。そこに君臨するシーファーは元ナチ。
イントロのエマ・ワトソンのCAさん姿が可愛い。60年代ファッションと映像がいいです。彼女の恋人はドイツ人のカメラマンで、自由を訴えるチリの市民活動を取材していたが軍部がクーデーターを起こし捕まる。エマ・ワトソンは助けるために入ったら出てこられない「コロニアル・ディグニタ」に潜入します。そこで行われていたことやメソッドは実話に基づいたものとは思いますが、ストーリーはフィクションだなという距離感で見ていました。サスペンスとして時間の使い方や伏線がうまく、どんどん展開していきます。そういう施設があってひどいことをしていた、大スキャンダルになったものの、その後も長く存在していたというメッセージが最後に入っていました。

『オマールの壁』、こちらは『コロニアル』がサスペンスの王道的な展開なのとは対照的に、社会的な背景がはっきりわからない(自分が不勉強です)こともあってどうなるか先が読めないタイプでおもしろかった。パレスチナの話で主人公の青年オマールと幼なじみの政治活動をしている青年ともう一人の青年の3人と、政治活動をしている青年の妹ナディアをめぐる物語です。オマールは自分の住んでいる街から政治活動の青年の家に行くには高い壁をロープをよじ登っていかなければなりません。彼の運動を手伝っていたのですが、秘密警察に捕まってしまいます。ナディアとは結婚の約束をしていてまだ家族には正式に伝えていませんでした。そんな状況で、もう一人の青年もナディアのことが好きで。漱石の『こころ』みたいな話ですが、終わり方がすき。『こころ』を読んでいるから、欲しいものを手に入れても後悔する生き方は辛いと思うのです。

Rhys Filmarathon extra article/番外編 映画『TOO YOUNG TO DIE 若くして死ぬ』

『TOO YOUNG TO DIE 若くして死ぬ』(2016)

クドカン脚本・監督の地獄でメタルの話です。
設定からして気になっていたのですが、やっと見ました。やっぱりリスさんの『リトル・ニッキー』をやりたかったんだなというのが私の勝手な感想です。これにはタランティーノもカメオ出演してましたし。話は全く違うので、ハリウッドさん、堅いこと言わないでね。

タイトルが出るところ、かっこよかったです。
ジミヘン、カート・コバーン、忌野清志郎、全部故人なのもちょっと笑います。
修学旅行中(多分阿蘇山の地獄めぐりをしていたよう)にバス事故で死んでしまった高校生の大助(神木隆之介)が主人公で、地獄に落とされ、地獄専属ロックバンドHellsに出会う。ヴォーカル・ギタリストのキラーK(長瀬智也)はすでに7回の輪廻転生を終え鬼になってしまっていた。大助は片思い中の女の子に気持ちを伝えぬままだったので、なんとか現世に人間で生まれ変わりたいと奮闘。7回の転生のチャンス(罰じゃなくてチャンスだというのがすごくポジティブ)と、ジゴロック大会で優勝すれば人間になれるというロックバトルで戦うお話です。仏教の地獄観がうまく盛り込まれていました。

リトル・ニッキー』は魔王の三男坊ニッキーが、家出して人間界に新・地獄を作ろうと目論む意地悪なアニキたちを連れ戻すために地獄と人間界を行き来するテンドンのテンポも早くて、改めておもしろいと思いました。こちらは90分と短めなのでテンポもものすごくいい。『TOO YOUNG TO DIE』はネタ的に120分は長いなという印象でしたが二回目に見たらそれほど気にならなかったです。なんだろう、恋する少年の部分はどのみち漫画っぽいのでスピードアップしてほしいとかワガママなことを思いました。そこも「2大つくりたいポイント」の1つとはよーくわかっているんだけど。

クラスメイトで地獄に落とされた早弾きのジュンコさん(皆川猿時さん)がオジーっぽかったり、高校生の大助が最後にはスクールボーイのコスチュームでおなじみのAC/DCのアンガス・ヤング風になっていたり、元メガデスのマーティもギター弾いていたり。みうらじゅんさん、そこだけトーク番組みたいだし。お祭映画の部分は楽しかったです。

そういうラインナップも『リトル・ニッキー』っぽくて、オジーがカメオ出演していたし、AC/DC、KISS、DIO(特典のインタビュー出演)あたり、ロックレジェンドなのでかぶるといえばかぶるし、かぶせたと言えなくもない。悪魔の長い舌も仏教的解釈にアレンジされていました。キラーKのメイク、リスさんのエイドリアンと顔を真っ赤にペイントしていた『ケミカル51』も連想するけど、Poisonのジャケットも長い舌を出した悪魔メイクのやつ(これはメンバーではなくモデルの女の子がやっていたそうです)があったなと。リスさんのサタンは目の上の出っ張りとか日本の鬼みたいなフォルムでした。大助は修学旅行に張り切ってストパに失敗した変なヘアスタイルで前髪を気にしていますが、ニッキーも長めの横分け前髪に隠れたシャイな男の子という設定でした。黒縄地獄という縄に吊るされる罰がありましたが、エイドリアンは人間界でのニッキーの仲間を人質として吊るしちゃうんです。しゃべるブルドッグ・ビーフィーくんがいましたが、『TOO YOUNG TO DIE』でもしゃべる犬、出てきました。ジュンコさんのスカートの中を見せていたのも(一応そういうコスチュームなんで大丈夫)、『リトル・ニッキー』でヒトラーが地獄でメイドさんのコスプレをさせられているのと似ていますが、こちらはセリフで誘導して絵で最後まで見せずにかわすというのがすごくうまい。映画全体、毒はあるのに見せ方はうまくかわしていて、製作がTVチームだからこそかもしれません。

そして『TOO YOUNG TO DIE』の天国のイメージがおもしろかったです。リスさん出演作『Mr. NOBODY』とそのオマージュ『2001年宇宙の旅』あたりのイメージが入っていると思います。メンバーの女の子が邪子で元ネタは『Mr. NOBODY』のJaco監督かなと。天国の〇〇へのこだわりはダニー・ボイルか?『リトル・ニッキー』は特典のメイキングインタビューで、斬新な天国のイメージ作りが一番悩みどころだったとアダム・サンドラーさんが話していて、普通は真っ白な世界にしがちだけどパステル調のバスーデーケーキみたいなイメージにしたと語られていました。クドカンバージョンもかなり斬新で宗教観の薄い現代的日本ならではかと思います。

小ネタですが、キラーKの現世での姿の近藤さんと彼女の死神(あだ名)が、耳の後ろを押さえてボン・ジョビっぽいって言っているの、『恋愛睡眠のすすめ』のガエル・ガルシアくんとシャルロット・ゲンスブールさんの「眼鏡のつるが・・・」っていうところと似ていました。『恋愛睡眠』の二人はクドカン作品『タイガー&ドラゴン』の時の岡田准一くんと伊東美咲さんの元ネタに見えて仕方がないです。

最後にタイトルの『TOO YOUNG TO DIE』、『TOO LATE TO DIE』という曲がモトリー・クルーにもハイロウズにもあります。むかしはロッカーは早死にするのがいいなんて言われていました。今はジイさんになってもロックやり続ける姿に夢を見ます。

関連記事/Rhys Filmarathon 『リトル・ニッキー』悪魔が憐れむマイノリティの歌
Rhys Filmarathon MR. NOBODY(1) Nobody but Rhys Ifans
Rhys Filmarathon MR. NOBODY(2) シンギュラリティ(特異点)と死のない世界
『2001年宇宙の旅』
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Rock, comic, novels, and miles of films(2) 薦めていただいた作品2

「Rock, comic, novels, and miles of films」という新カテをこの前作ったけれど、どうカテゴライズするかまだ検討中。タイトルは大好きなガイ・リッチーの『Lock, stock and two smoking barrels』から。

『Lock, stock and two smoking barrels』
これは誰かに薦められたのではないですが、ジャケ買い的勘から。でもネッ友の方にお好きな方がいらして。『Lock, stock』は映画版とドラマシリーズ両方を見ましたが、翻弄されっぷりからすると映画版の方が好き。その間抜けな混線ぶりを裁く手際が本当におもしろかった。混線系ではリスさん映画『マイ・ファニー・レディ(She's funny that way)』もですが、そこはもうちょっと、と思いました。これはブロードウェイの話でセリフのコメディなので、英語がわかるともっとおもしろく見られるそうです。『Lock, stock and two smoking barrels』は話の収まりが本当に鮮やかでした。映像の色味も今は『SHERLOCK』のように青みの強い寒色系に振るのが主流のようですが、『Lock, Stock』は黄色と緑を強めたレトロな色合いで久しぶりというか新鮮でした。『Lock, stock』ドラマ版にはマーティン・フリーマンが出ていたのですね。そこは知らずに見たので得した気分です。00年代のドラマですが、こっちの方が『トレイン・スポッティング』原作続編テイストでした。オランダ、◯ルノビデオ制作(変なワードに引っかかると嫌なので伏せときます)、薬物、クラブ。13と30を勘違いするとか『ギャング・オブUK』(こっちは16と60)でもあったのでお約束なのでしょうか。このあたりはRhys Ifans カテからどうぞ。ドラマ版はカットがマンガ的というか見せ方が本当におもしろいです。
マーティンはクラブDJ兼売人でしたが、近い時代のリスさん映画『イビサ・ボーイズ・GO DJ』の解説によると、当時はミュージシャンになるよりもDJになりたがる子の方が多かったそうです。そして『トレスポ』とか英国人作家イアン・マキューアンによるとオランダには英国人の住む地区があるし、オランダから薬物が英国に入ってくるとかそんな話が出てきました。

さて、本題に入ります。薦めていただいた作品について書きましょう。

シャーロック課題図書?『占星術殺人事件』島田荘司

読んだのは二年ほど前。アップするのはもう一度読んでからと思っていたけれど、思いっきり時間が経ってしまい、とっくに御手洗シリーズは玉木宏で映画化されたのだった。私はドラマも映画も逃しています。

本作は日本三大推理小説に入る作品だそうだです。
解説によると、作者が30歳で書いた処女作品とのこと。
あまり本格は読みませんが、理詰めぶりがすごい。読者が思いつくであろうことをどんどんつぶしていくので、ナンクロしているみたいでした。

戦前の時代設定なので夢野久作のような雰囲気がした。そして、このめんどうな記述は『ドグラ・マグラ』式かなと思ったらそうでした。トリックと犯人は分かったけど、細かいところまで推理できなかった。

「シャーロック・ホームズを意識」したキャラクター設定。
ホームズが好きなくせに悪口。原作ではホームズは老婦人に変装して犯人に傘を拾わせるエピソードがある(『恐怖の谷』だったかな・・うろ覚えです)。私もあの長身でおばあさんのふりなんか無理じゃん!と思っていた。「みんな、おや、ホームズさんが歩いている、と思ってだまって見ていたんだよ」。そしてガイ・リッチー版映画『シャーロック・ホームズ』の女装は未完成。

平吉の死因の迷推理は、意識もうろうな状態で床に伸びていた本人が誤って鉄製のベッドに頭をぶつける、でした。私は自転車置場でラックによく頭をぶつけるので。これは可能性がちらっとさえも出て来ないとんだ迷推理でした。


『さよならソルシエ』 穂積
2016年の『ゴッホとゴーギャン展』がおもしろかったのですが、その時に教えていただいたマンガです。画家フィンセント・ファン・ゴッホを支えた画商の弟テオルドスが主人公。テオは兄を生涯献身的に支える温和で真面目な弟という従来のイメージを覆し、切れ者でやり手の画商、プロデューサーとして描かれています。タイトルのソルシエとは魔法使いのこと。

着眼点はすごいなと思いました。

ゴッホへの興味は、小学生の時に読んだ伝記本から始まります。偉人の伝記はほぼ読まなかったのですが、その時はたまたま一冊に入っていたゴッホとは別の人が読みたかったので図書館の本を借り、全部読まないと返してはいけない決まりだったのでゴッホも読みました。聖職者としてものすごーくストイックな暮らしをしていた時代、夜、お祈りをしながら鞭で自分の足を叩くシーンがあり、子ども心にやばい、と思ったものでした。そういう厳しい戒律の宗派もあるんです。ピューリタンのオランダの人だしさ、多分。でも下宿のおかみさんは変わり者扱いしていたように覚えています。そういう変人の画家と彼を支えた弟テオがなんだかつらそうだなと印象的でした。そのあとゴーギャンとのアルルの暮らしや事件があり、読むのが大変だった分印象も強いのかもしれません。

マンガに戻って、兄を支えようと思ったら、そんじょそこらの画廊勤めでは無理。物語の中ではテオはパリで超一流の画廊に勤めている。顧客も貴族や金持ちで当時の芸術は一部の恵まれた人のものでした。しかし街にはフィンセントを始め若く新しい芸術を模索する画家たちが大勢いた。権威のある展覧会には、彼らのような新しいタイプの画家は出品すら認められません。
そういう若い画家のためのアンデパンダン展(インディペンデントということですよね)を開く。
そして夭逝した「炎の画家フィンセント」を作り上げたプロデューサーの弟。
フィンセントは怒りの感情を知らないので何を見ても美しく感じる人物として描かれています。ニコニコして放浪の画家って、山下清みたい(ドラマイメージですが)。今私たちが知っているゴッホのイメージは弟によって死後作られたフィクションだったとするものです。

弟に目を向けるのはとてもおもしろいのですが、気になったことがあります。
アンデパンダン展の印刷物(パンフレット的なフライヤー)を用意していたのです。しかし、結構ギリギリまで画家たちは絵を描いていて、絵の具が乾くのもなんとか間に合いそうといっている。

・印刷物を用意する時間はあったのか
・この時代写真製版できたのか

マンガの中ではグレーに変換したもの(要するに網点のあるもの)が貼られています。
そこから少し変な方向に興味が向い(苦笑)調べてみました。結論はわかりません。

ゴッホの活躍したのは1890年前後。ホームズの時代とも重なりホームズはもっと後まで続きます。ホームズといえばパジェット先生の挿絵が売りでした。挿絵は単彩ですが線画のものと、墨の濃淡が印刷の網点で表現されたものと両方があります。これは写真製版なのか石版印刷なのか。印刷のタイポグラフィ(文字)の話は資料もありますが、グラビア印刷の方はネット検索ではまとまったものがなかなかなくて。イギリス人のウィリアム・モリスも同時代の人で参考になるかと思ったのですが、印刷物の氾濫により醜いものが増えたことを嫌って美しい本作りも手がけていたのですが当時の技術と逆行する昔ながらの手法で美を追求していたのでした。

結局『ファン・ゴッホ評伝』(二見司郎 みすず書房 2010)という本に、ゴッホがグーピル商会で働いていた時代に、画廊は絵画の印刷による複製販売もしており、写真製版していたと書かれていました。

しかし別のゴッホ研究書『ゴッホ 契約の兄弟』によると、当時写真製版はできなかったとあります。石版印刷だったと。ゴッホの手紙の中にも石版画のことは出てきます。石版は薬品をかけて化学反応で凹凸を作る方法です。こちらは線画っぽい仕上がりになります。作るには油絵とは別に線画か少なくとも縮小した下絵がいるのではないかと思うので、全く内緒で作るのは難しそうだし、ゴッホが他の画家の下絵を代筆したとか?少し無理があるような。顔写真は残っているので当時写真自体はあるのですが、写真製版できたかははっきりしません。

ゴッホの書簡集を読むと、手紙の中にはゴッホのスケッチとか今こんな絵を描いていますという線画も入っています。なので、このマンガの話でいくと(ネタバレするのではっきり書きませんが)、そういうのも全部そうなの?ウムムと思います。ゴッホってすごく筆まめな人で20年以上に渡ってフィンセントが弟テオドルスに書き送った手紙は膨大な量です。(しかもネットでも見られるそうですよ!)東野圭吾の『悪意』がそんな話でしたが、この場合20年分は大変だ。全書簡集は4巻もあるそうです。

『ファン・ゴッホ評伝』には「狂気と天才」というドラマなどで流布した行き過ぎたイメージがあるとも書かれています。
また『ゴッホ 契約の兄弟』は、「生涯に1枚しか絵が売れなかった画家」というのは本当に売れなかったのではなく売らなかったからだと推測しています。実は生前それなりの注目を集めていたゴッホ、死後の高騰を見越して売らなかった、という説。『さよならソルシエ』はこのあたりのことを描いたのかもしれません。この本の兄フィンセントは山下清のようにはとても見えませんが。テオの働いていたグーピル商会というのはパリの画商ですが、もともとゴッホ兄弟の叔父(伯父?)さんがオランダで画廊を経営していて、グーピル商会の傘下に入ったというか売ったのでした。兄フィンセントも若い頃働いていました。テオはゴーギャンの絵も取り扱っていました。テオはフィンセントの死後1年ほどで亡くなっています。本によると死因ははっきりしていないが梅毒末期だったとか。

2016年の『ゴッホとゴーギャン展』はゴーギャンが耳切り事件とゴッホの自殺をかなり引きずっていたのではというドラマがおもしろかったです。ゴーギャンをモデルにしたモームの『月と六ペンス』もおもしろかった。ストーリーもおもしろいのですが、語り手である若手小説家の地の文もおもしろいです。「人生は無理をして嫌なことをしなくてはいけないので二つやっている、朝起きることと夜眠ることだ(注 ここも記憶で書いています)」相当カッコつけていますけど、おもしろい。で、私のゴーギャンイメージはリス・エヴァンス。昨日流れていたのはウィレム・デフォーがゴッホをやるとか。この方の年齢からすると、実際のゴッホよりはだいぶ年上ですけどね。

※ゴッホ兄はファン・ゴッホに合わせてフィンセントで統一しました。英語読みならヴィンセント・ヴァン・ゴーグ、フランス語ならヴァンサン。※そして例によってマンガについての評論や感想は一切読んでおりません。独断で書いています。※印刷技術に関してはもっと調べたらわかるかもしれませんがひとまずこの辺にしておきます。